神楽坂のキャリアコンサルタント

永らく「神楽坂のキャピタリスト」のタイトルで発信をして参りましたが、この度タイトル名の変更を致しました。

角田光代「さがしもの」を読んで

macky-jun2012-09-15

  友人から借りた本が面白かった。「八日目の蝉」はNHKドラマで見たけれど、これまで角田光代の作品を読んだことはなかった。そういえばこれまで不思議と女性作家の本はあまり読んでいないことに気が付いた。女性に関心がないわけでもなく、女性から見た世界にまで関心を示すだけの心の余裕が私には乏しかったのかもしれない。
 本書は本をめぐる9つの短編集である。冒頭の「旅する本」は、初めて売った古本にネパール、そして時間を経てアイルランドの古本屋で出会うという不思議な話だ。古本の面白さは所有者が次々に代わっていくことだ。自分がその本から思ったことが、次の所有者はどんな思いで読むのだろうか。
 この短編集には古本や古本屋が多数登場してくる。私もたまたま古本にかかわる仕事に就くことになり、そんなこともこの本に只ならぬ興味を持った理由である。そんな思いも込め、行き帰りの南北線で1編ずつ読んでいたら、あっという間に読み終わってしまった。
 「不幸の種」では見覚えのない、自分のものかもわからない、しかも不幸の種のように思える本が登場する。同じ本を読むことで、自分の変化や成長を知ることが出来ると教えてくれる。「悲しいことをひとつ経験すれば意味は変わるし、新しい恋をすればまた意味が変わるし、未来への不安を抱けばまた意味は変わっていく。」
 一人旅をした伊豆で持ち主不明の詩集に挟まれた別れの言葉を書いた女性を想像するうちに自分によく似ていると思うようになる「手紙」。生まれ育った平凡な田舎町にある「ミツザワ書店」、そこは世界に通じるちいさな扉だったのだ。そういえば私も子供の頃から本屋が好きで、行けば1〜2時間は滞在したものだった。表題作「さがしもの」ではお祖母さんから頼まれた本を探しに、書店や古本屋を訪ねるうちに書店に勤め、ブックコンシェルジェになる主人公。そして女性作家らしく、若い男女の恋愛話が本の話を絡めちりばめられている。
 さてこの角田さんの「さがしもの」だが、単行本時のタイトルは「この本が、世界に存在することに」だった。単行本は水色の表紙、9編から成る短編が全て字体や構成が違うデザインとなっており、とってもおしゃれだ。関心を持たれた方は是非、単行本で読んでもらいたい。