神楽坂のキャリアコンサルタント

永らく「神楽坂のキャピタリスト」のタイトルで発信をして参りましたが、この度タイトル名の変更を致しました。

鴻海精密工業の衝撃

macky-jun2012-04-21

  先週から教えている大学院の講義が始まった。今年度は「ベンチャー起業論研究」という通年の講座を持っている。隔週なので授業準備には余裕があるが、土曜日の朝からの2コマなので、平日の緊張感を引きずったままだ。今年度はどの位の生徒が集まるかと教室を覗くと、なんと生徒がびっしり座っており教室は満席だった。もっと広い教室に移れないかとアンケートに書いてくる生徒もいるほどだった。
 まず簡単に自己紹介をした後に、私の授業ではウォーミングアップとして、その時々のニュースやトピックスをテーマにして、頭と体を暖めてから授業に入るという話をした。この日はまずソニー・シャープの大幅赤字決算の新聞記事と、パナソニックを加えた会社四季報のコピーを全員に配り、つかみの話を始めた。
 このブログではこれまでも書いてきたが、「日本の電機産業に何が起きているか」という話だ。上記3社の前期決算はソニー▲5200億円、パナソニック▲7800億円、シャープ▲3200億円で大幅に下方修正された。この3社の11/3期純資産はソニー2兆2275億円、パナソニック2兆3334億円、シャープ7772億円である。よってシャープの純資産は既に約半分になっている。今年度も同規模の赤字を出せば、債務超過も見えてくるという窮状だ。だから片山社長は引責辞任したし、なんと台湾の下請け企業の傘下入りすることになった。数年前は世界のAQUOSで燦然と輝いていたシャープも今や見る影もない。
 鴻海(ホンハイ)精密工業はいろいろな企業の下請けとして、電子機器の受託製造を行なうEMSという業態の世界最大企業である。売上高約10兆円、従業員100万人という規模でも日本の大手電機メーカーを大きく凌いでいる。AppleiPhoneiPadの製造で急成長した。ちなみに鴻海の時価総額は3兆4000億円であり、ちょうどソニー(1兆3700億円)とパナソニック(1兆5650億円)とシャープ(5480億円)の3社を併せた時価総額と同じくらいだ。下請けなどと馬鹿になどできない凄い企業なのだ。こんな企業が彗星のごとくあっという間に現れるのが今の世界なのだ。
 日本のこの3社の昨日のPBRは面白いことに、0.57〜0.58なのだ。何故か同じ水準に収斂している。PBRとは株価純資産倍率という証券分析によく使われる指標であり、時価総額を純資産で割った数字である。市場が如何に評価しているかを現すが、PBRが1未満というのは、会社の解散価値を株式価値が割り込んでいるということであり、会社の将来性を投資家は全く評価していないということを意味する。すなわち、悪あがきで事業継続しないで、会社の固定資産とか有価証券とか資産をさっさと処分して、解散してしまった方がいいということになる。残酷な現実を突きつけられているのが日本の電機産業の現状なのである。
 かつて世界中でブランド価値を誇ったこの3社、今や凋落も激しい。彗星のように現れた鴻海のような企業もいれば、落ちていく企業もある。如何に持続的に成長を続けるのが難しいか。そして、この世界は常に新陳代謝を繰り返し、新しい企業が誕生するということを物語っている。一度死にそうになって今や世界最高の時価総額企業になったAppleの例もある。何とか、日の丸電機産業には復活を果たしてもらいたい。