神楽坂のキャリアコンサルタント

永らく「神楽坂のキャピタリスト」のタイトルで発信をして参りましたが、この度タイトル名の変更を致しました。

「マーガレット・サッチャー 」

macky-jun2012-03-20

  16日に公開したばかりの映画「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」を早速、新宿ピカデリーで観てきた。イギリス史上初の女性保守党党首で、1979年から90年までの10年超の長きにわたり首相に在任した。チャーチルに並ぶ歴代に名を残す女性宰相の伝記である。但し、冒頭はすっかり老いて認知症が進行した我々が見たこともないサッチャーが現れ、過去を回想し、現在と行ったり来たりする。あのバリバリのサッチャーも人並みに認知症になってしまうというのが衝撃だった。
 サッチャー就任前のイギリスは英国病と呼ばれ、経済は停滞し、街は汚れ、財政は悪化し、かつての栄光も廃れ、至る所に国の崩壊の兆しがあった。しかし、鉄の女は強い信念で、国有企業を売り払って民営化を進め、収益を上げられない炭鉱を閉鎖し、労働組合と対立した。財政再建の為に福祉を切り詰め、景気刺激策を止める。街に失業者があふれ、反対派の抗議活動も激化し、家を爆破されるなど彼女自身も危ない目に遭う。しかし、鉄の女は決して負けないのだ。自分の信念を曲げず、どんなに反対にあっても屈しない。
 1982年のフォークランド紛争で苦渋の決断をし、この先勝で彼女は熱狂的に国民から支持され、強い首相になっていく。冷戦終結で東西対立がなくなった歴史の境に、果たした役割は大きい。ゴルバチョフを「彼となら仕事が出来るわ」と評価し、レーガン米大統領とも密接な関係を築いた。しかし、最後の退陣の場面では腹心の部下にも裏切られ、屈辱を味わう。夫デニスとの強い愛情と信頼関係ももう一つのテーマだ。
 主演のメリル・ストリープはこの作品で3度目のアカデミー賞受賞。主演女優賞2回(1982ソフィーの選択、2011マーガレット・サッチャー鉄の女の涙)助演女優賞1回(1979クレイマークレイマー)、ノミネートは17回という史上最高記録を持っている。しかし今回の受賞は29年ぶりであり、授賞式ではとても嬉しそうにしていた。最近はノミネートのみで何度も空振りを味あわされた。さぞや快心の思いだっただろう。屈しない彼女もまた鉄の女なのだ。
 なるほど素晴らしい演技だった。サッチャーを40代から80代まで演じられるのは彼女をおいて他にはいない。自信に溢れたリーダーのサッチャーと、誰しも訪れる老いに苦しみ、認知症で夫デニスの幻影と過去の悪夢に苛まれるサッチャー。鉄の女も家庭に帰れば普通の主婦であり母であり、普通のヨボヨボ老人になるという姿をとてもよく演じ分けていた。彼女がオスカーに愛されている秘密がよくわかった映画だった。必見だと思う。