神楽坂のキャリアコンサルタント

永らく「神楽坂のキャピタリスト」のタイトルで発信をして参りましたが、この度タイトル名の変更を致しました。

「沙高樓綺譚」感想

macky-jun2012-02-02

 久しぶりに浅田次郎を読んだ。5編から成る短編集。南青山にある秘密サロン「沙高樓」に集まる世の高みに登りつめた者たちが、胸に秘めてきた驚愕の経験を語りあう。主人からの毎回の口上「語られます方は、誇張や飾りを申されますな。お聞きになった方は、夢にも他言なさいますな。巌のように胸にしまいますことが、この会合の掟なのです。」が頭に残る。
 刀剣鑑定の家元が語り部となる「小鍛治」、精神科の医師が語る幼馴染の女性との不思議な邂逅「糸電話」、映画界の巨匠と組んだ名キャメラマンの語る「立花新兵衛只今罷越候」、“ガーデニングの女王”の庭番をする老女による「百年の庭」、やくざ七代目総長が語り部となる「雨の夜の刺客」。
 どれもがこれまでの浅田作品を思い出させ、ニヤリとしてしまう秀作ばかりだ。誠にこの作家は守備範囲が広いのに感心させられる。しかも時代背景や業界知識など物凄い勉強をしているのがわかる。「小鍛治」では室町時代から続く刀剣鑑定家元から刀剣の奥深い世界が語られる。「糸電話」は「霞町物語」に通じるような青春物の甘い切ない世界だ。
 「立花新兵衛只今罷越候」は浅田の得意とする新撰組シリーズと「活動寫眞の女」のミックスだろうか。「百年の庭」はガーデニング、特に薔薇好きの作者らしい「薔薇盗人」に通じる作品だろうか。「雨の夜の刺客」は浅田が初期に得意としてきたピカレスク物だ。やくざの世界を描きつつも、主人公辰の純な生き方にグッとくる青春物に通じる作品だ。
 どれも甲乙つけがたい作品で、ミステリーと名付けられているが、途中で止めることのできないものばかりなのが困ったものだ。私は浅田作品は常に何冊かストックを持っていて、この「沙高樓綺譚」も2年ほど前から家にあった。さっそく明日から続編となる「草原からの使者」を読むこととしよう。