神楽坂のキャリアコンサルタント

永らく「神楽坂のキャピタリスト」のタイトルで発信をして参りましたが、この度タイトル名の変更を致しました。

「博士の愛した数式」を読んで

macky-jun2011-04-11

  以前、この作者へのインタビュー記事を従兄が日経に書いていて、その清楚な姿と言動に一度作品を読みたいと思っていた。処に友人がたまたま代表作である「博士の愛した数式」の単行本をプレゼントしてくれたのである。数学と小説、これをどう絡めるのか。80分しか記憶が持たない数学者と主人公の家政婦さん・・・難しい設定だ。どんな風にこの人間関係の数式を解いていくのか、そんな興味を持って読み進んだ。
 「博士」64歳は優秀な数学の元大学教師であったが、45歳の時の自動車事故が原因で、新しい記憶は80分しか持たず、数学にしか関心を持たない所謂「変人」である。家政婦で博士のもとで働くことになった主人公の私28歳と息子の「ルート」10歳、そして博士の義姉である冷たい視線を持つ老女72歳(かつて博士と特別な関係にあったと暗示される)が絡み、4人を中心に話は展開していく。
 2003年に出版された本でもあり、第1回本屋大賞を受賞した大ベストセラーでもあるので、作品については今更私如きが書くべくもなく、他の人のブログに譲りたい。主人公の誕生日である220と博士の記念の時計のNo.である280が友愛数(其々の約数の和が相手の数となる)という偶然がきっかけで親しさが増す。また、博士の好きであった阪神時代の江夏と阪神ファンである息子「ルート」の接点となる江夏の背番号28が完全数(約数を足すとその数になる珍しい数)であること。そして、ストーリーの骨格になるのはこの江夏であった。
 僕も小学生の頃、数字に嵌まったことがあった。数字を弄り回していると、何か定理や法則を編み出せるような気がした。ピタゴラスに続こうと、あれこれ計算をひとしきりやった。だけど、今から思えば全て発見され尽くされた関係であった。ただその先の数学の奥深さを知らなかっただけの愚かさを後日後悔した。旅人算や図形という算数はこどもの頭の体操のようであり、中学に入って、それが代数と幾何という名前に変わった。学問的な名前に変わっただけで、とても高貴なものに感じられた一方で、論理的で極めて解り易い世界だった。算数時代のモヤモヤした世界から、ブルースカイに世界は変わって行った。数学はとても詩的で美しく、広大な世界だった。
 義姉との間でトラブルになった時に、博士が書いた一片の数式が<eπi+1=0>というフェルマーの定理であった。指数関数であるe、πは円周率である無理数、iは-1の平方根虚数、1は実数の基準である。この全く共通点を持たない4種類の数が全て重なることで「0」という調和の数になる。それ以降、4人の関係は新しく開かれたものになっていく。
 人生の中で出会う数字の持つ意味、神秘性・・・とても奥深い世界がありそうである。そんなことを思い出させてくれた作品であった。考えてみれば、数字と関わる仕事をずっとしてきたのだった。その数字を読み解くことで、いろんな形に世界は展開してきた。幸福にもなり、不幸にもなった。しかし、数字から真実を読み解くことを知った。数字に表れない真実を嗅ぎわけることも知った。数字との関わりの中で、人生はより深く、面白くなっていく気がする。