神楽坂のキャリアコンサルタント

永らく「神楽坂のキャピタリスト」のタイトルで発信をして参りましたが、この度タイトル名の変更を致しました。

幸田真音「代行返上」

macky-jun2011-03-21

  土曜日は小金井の実家に行き、昨日は娘の卒業式と、2日間慌ただしく出歩いていたが、今日春分の日は朝から雨が降っており、全く外出をしなかった。福島原発は放水活動が続いており、まずは安定感が出てきたこと、余震は続いているが、少しは小康状態を保っているようだ。
 そんな少しだけ安心感の下で、来年の大学院講義のシラバス作りをしようと思ったら、システムが立ち上がらず、出来ない。そんなやるせない状況で、本を読んだり、PCに向かったりしていた。昨晩、遅くに帰ってきた娘は今朝自分の家に戻り、疲れもなんのその、今頃は店頭に出ているであろう。
 幸田真音の「代行返上」を読了。年金問題を扱った小説である。友人と話をしていて、自分は年金に関する知識が圧倒的に不足しているなと感じたので、先ずは手近な幸田真音さんの小説でも読んで、馴染んでみようと思った次第である。これでもFPの資格を持っているのにも関わらず、リアルには関心がなかった為に、全く知識が血肉になっていないのである。
 サラリーマンの年金は3階建て構造になっている。1階部分が基礎年金(国民年金)、2階建て部分が厚生年金、3階建て部分が厚生年金基金とか適格年金と呼ばれる企業年金である。かつては1・2階部分を国に代行して企業が運用していたが、低金利バブル崩壊で逆鞘の運用となり、収益の圧迫要因となり、企業のB/Sを傷め、変動リスクを抱えることになった。それで国に対して現金で返上し、代行返上をすることになった。
 その代行返上が株価の大幅下落リスクを招き、ヘッジファンドの暗躍と絡めるという話で、信託銀行の年金運用部門のプロフェッショナル河野俊輔を主人公にした物語だ。女性誌編集者から実家の中堅証券会社の後継経営者となる今井理美、高校同級生で外資ヘッジファンドに勤める多田亮一を絡め、展開する。
 幸田真音は私の好きな作家で、土曜朝7時のラジオ放送もいつも聴いている(今週は同期の国債のエキスパートT君が再び登場)が、この作品の評価はネットで読む限りはあまり芳しくないようだ。しかし、私はそれなりに楽しめた。年金の知識補強にはあまりならなかったが、年金に関連したビジネスをする人々の雰囲気がわかったことで、先ずは充分だった。また、小説としての展開に不満な読者が多かったようだが、代行返上を2003年という同時並行で書いたこともあり、あまりドラマティックな展開にはなっていない。そこに読者は不満があるのだろうが、そもそも現実の経済ではあまりドラマティックなことはそんなに起こり得ない。だから、当たり前の普通の話の方がとても現実的なのだ(しかし、ここ最近のリーマンショックや今回の大震災はとてもドラマティックだったね。事実は小説よりも奇なりか)。
 金融に従事する者にとっては、ドラマのような劇的なことよりも、一見普通に見えることの中に深さを見出すことで、日々の仕事の充実感を味わっている。だから、小説としての面白みは薄かったかもしれないが、私にとっては自然に受けとめることができたのだと思う。作者のいろんなテーマにチャレンジしていく果敢な姿勢をむしろ評価したい。