神楽坂のキャリアコンサルタント

永らく「神楽坂のキャピタリスト」のタイトルで発信をして参りましたが、この度タイトル名の変更を致しました。

浅田次郎「ハッピー・リタイアメント」

macky-jun2010-11-19

  抱えていた大型の案件がある事情で打ち切りとなってしまったので、急にポッカリと暇になってしまった。心の疲労も立て直すべく、こういうときは浅田次郎の面白本に限ると思い、「ハッピー・リタイアメント」を読み始めた。小説や映画はこうした効用を持っている特効薬でもある。
 中小のベンチャー企業経営者への銀行貸出に対して、債務保証をする全国中小企業振興会(JAMS)神田分室の整理部に勤める出向転籍した二人の男たちの物語だ。一人は財務省のしがないノンキャリ役人、もう一人はノンエリートの愚直な自衛官ニ佐(中佐)。ともに55歳。彼らはラッキーなことに仕事は基本的にないが、給料のいい政府系の外郭団体に天下りをする。定年の60歳までは何をしなくても保障されているという職場だ。
 ここに銀行から転職してきた秘書兼庶務係の年齢不詳の美女が加わり、あることをきっかけに彼ら3人は仕事をしようと立ち上がる。既に弁済期限の過ぎた、法的には返済義務のない借金の回収を試みるのだ。昔、踏み倒して夜逃げした人間が、その後成功者となり、金持ちになっている。それらの人物を訪ね、本人の道義的責任の意思を喚起し、回収に成功していく。我々のExit交渉にも近い世界が展開する。そして、わずか8カ月で3億数千万円もの回収資金を蓄えてしまうのだ。
 浅田次郎自身を彷彿とさせるような小説家、世界の外食チェーン王になった経営者、セレブ・マダムのオピニオンリーダーになった若作りな淑女・・・。こうした人々から、返す必要のない借金を次々と回収していく。それを返済した本人たちからは、若い頃の心の傷を癒されたと、むしろ感謝されてしまう。
 成程、小説ならではの世界だと思いつつも、惹きこまれた。まあ、こうした夜逃げ踏み倒した人物が、大金持ちの成功者になっているケースは、極稀ではないかとは思うけど、仕事上身近な世界でもあり面白かった。また、私とあまり年齢の違わない主人公たちが、第二の職場に転籍となる描写が、とっても現実感のありそうな話で、他人事とは思えなかった。
テーマは、今話題の事業仕分けに登場する天下り先の物語でもある。この国の矛盾を鋭く風刺している。彼ら3人の用意周到な筈の秘密の計画が実行に移されるのだが・・・。浅田流文章の気持ちよさに酔いつつ、読んできたのだが、この結末はちょっとあまりにも・・・と思ったのは私だけじゃなかろう。