神楽坂のキャリアコンサルタント

永らく「神楽坂のキャピタリスト」のタイトルで発信をして参りましたが、この度タイトル名の変更を致しました。

浅田次郎「あやしうらめしあなかなし」

macky-jun2010-09-11

  今日はこれから東海道線特急「踊り子号」に乗って、伊豆熱川へ旅に出る。中学野球部監督のF先生が70歳を迎えられたのを記念して、先生ご夫妻と犬2匹をご招待し、全国からメンバーが集結する。
 さて、旅の前に本のご紹介。旅には1冊の文庫本が似合う。浅田次郎の「あやしうらめしあなかなし」を読んだ。怪談話7話を集めた短編集である。ただ怖いだけの話ではなく、浅田らしい人情の機微を綴ったほろっとする不思議な話である。
 この中で戦争に絡む話が2編あるが、特に「遠別離」という話が好きである。さりげなく戦争の矛盾、非人間性を訴えている。六本木の東京ミッドタウンは元防衛庁があった所だが、その前は麻布第1連隊があった。そこから出征して行った人が何万人と戦死をしている。特にレイテで玉砕をしたり、南方に送られた人が多い。自衛隊にいたことのある浅田にはなじみのある場所であり、ミッドタウン開発の時に取材に行き、レクイエムのつもりで書いた作品らしい。
 主人公の死んでいく兵隊に対し、お婆ちゃんになった奥さんが会いに来る。そして、「ごくろうさまでした」と言う。「ありがとうございました」「ごくろうさまでした」この感謝の言葉の響きはいい。日本語の美しい言葉の代表格だ。犬死にしていった多くの先達たちを、誰もほめてくれないし、ねぎらってもくれない。日本国にかわって言ってあげられる言葉は、この2語をおいてないだろう。
 思い出しただけで、涙が止まらなくなる作品だ。この短編集は他にもいい作品が多い。御岳山にまつわる伝承の怪談2編「赤い絆」「お狐様の話」、自身の体験から着想し創作した「虫篝(むしかがり)」「骨の来歴」、看護婦さんという職業の気高さを描いた「昔の男」、銀座で出会った不思議な女の話「客人(まろうど)」どれも美しい日本語で書かれた、怪談の筈なんだけど温かい話ばかりである。寒くなる筈が、心はポカポカに温かくなってしまう。
 最後に筆者の言葉を借りて、この作品を紹介したい。「日本特有の神秘的で幻妖な世界で、生者と死者が邂逅するとき、静かに起こる優しい奇蹟。此岸と彼岸を彷徨うものたちの哀しみと幸いを描く極上の奇譚集。」一読を是非お薦めしたい。