神楽坂のキャリアコンサルタント

永らく「神楽坂のキャピタリスト」のタイトルで発信をして参りましたが、この度タイトル名の変更を致しました。

ユニクロ研究(5) グラミン銀行との提携に拍手

macky-jun2010-07-19

 いつも話題を提供してくれるユニクロが、英語公用語化に続いて、またまた注目を集めている。バングラデシュマイクロファイナンス貧困層向けの融資)を手掛けるグラミン銀行との提携を発表した。今秋、同国での衣料製造販売会社を合弁で新しく設立する。1着1ドルのTシャツや下着類を貧困層向けに販売する計画である。
グラミン銀行は1983年にムハメド・ユヌス氏が農村の貧困層救済のために創設した銀行で、貧困層が経済的に自立して生活できるように無担保で少額融資を行なっている。2006年にユヌス氏と共にノーベル平和賞を受賞している。
 「その国にとって良い企業でなければ、その国で生き残れない」と、記者会見で柳井正会長兼社長が述べた。ユニクロとしては「ソーシャルビジネス(社会事業)」の一環であり、3年後に販売員を中心に1500人の雇用を創出し、社会貢献につなげる。同国では流通網がないので、販売員が農村で家屋を訪問し、対面販売する。
 収益は度外視した事業であるが、企業イメージの向上だけが狙いではない。さすが同社には深い戦略的計算があるようだ。これまで生産拠点としては中国主体であったが、人件費が高騰しており、徐々に生産拠点としては相応しくなくなってきている。同社は2008年からバングラデシュでの生産を始めており、生産拠点を今後中国から徐々にシフトしていく計画だ。また、グラミン銀行にとっても、ユニクロの雇用創出によって貸付金の回収が進むというのが、提携メリットだろうか。
 当面の顧客対象は新興国中流層までだが、貧困層の人口は世界で40億人おり、最貧国の一つのバングラデシュでは1億5千万人もいる。潜在市場としてとても大きく、「服を変え、常識を変え、世界を変える」を目指すユニクロとしては、この層を開拓するのが長期的な重要テーマである。柳井正にとっては「バングラデシュで確立したビジネスモデルは世界に広げることができる」と、パイロットプラント(実験拠点)として考えている。単なる社会貢献でなく、長いソロバンを弾いているようである。
 大学時代の経営学の講義で、「企業は何の為に存在するか」というテーマで、利潤極大化の原則か、社会奉仕の原則か、と2つの相反するかのような理論を勉強したのをわずかに覚えている。成功した企業が、社会事業をする中で、雇用を創出し、その地域経済に貢献し、共に益々栄える、というユニクロの目指す戦略であれば、両方とも理論は共存できうる。同社はこれまで日本国内で回収した古着を、発展途上国へ寄付するという社会福祉事業にも取り組んできた。ユニクロの愛に溢れた、勇気ある戦略に拍手を送りたい。「一勝九敗」にならないことを祈る。