神楽坂のキャリアコンサルタント

永らく「神楽坂のキャピタリスト」のタイトルで発信をして参りましたが、この度タイトル名の変更を致しました。

 浅田次郎「霧笛荘夜話」

macky-jun2010-02-05

  今朝の通勤電車で、浅田次郎さんの「霧笛荘夜話」を読み終わった。先日、購入してから一週間あまり、大事に一章ずつ読んできた。専ら、通勤のわずかな時間で連日読んだのだが、この間、小田原の出張にも持って行ったし、土日も持ち歩いたりした。とても惹き込まれる小説であるが、作品は7つの小話で、各部屋に住んでいた住人の物語で構成されている。これがまた、浅田次郎特有の優しさに満ちた泣かせる話の連続なのである。
 港町にある運河のほとりの古いアパート”霧笛荘”。そこには行き場を失った者たちが辿り着く。不思議な管理人である纏足の老婆。嵐の中、自殺しそこなった若い娘、千秋。千秋に親切な、上品な雰囲気ながらクールな美人ホステス眉子。おつむが少し弱いけど、義理人情に厚い、鉄。北海道から上京した、姉思いの若きギタリスト、四郎。花の大好きなオナベのカオル。訳ありの老人、マドロス。この7人の物語である。 
 このあと読まれる方の為に、詳しく書くつもりはない。浅田作品の中では、はっきり言ってあまり有名な作品ではない。私もあまり意識はしなかったし、たまたま秋葉原ブックオフで105円で見つけてしまったので、読みだしたという次第である。我が家にはまだ読み終えていない浅田作品がいくつかあるのだけど、何故かこの本を手に取って、読み始めてしまった。そして、夢中になった。7話の小話に分けられた作品であったので、敢えて一気に読み倒さず、時間をかけて、毎日少しずつ味わったのだった。本好きな人にはこの気持ちはわかって頂けると思う。
 その位、静かな、心に浸みわたる、いいお話でした。多少、話の展開に無理はないかと思った部分もありました。だけど、人生はドラマティックなものと考えれば、そのようなこともありうべしと納得してしまいます。また、所々、この場面はどっかでお目にかかったぞ、という懐かしい場面もありました。これは多分に作者の隠れた意図であったとも思いますが、例えば、「鉄道員(ぽっぽや)」の駅長さんのような人が出てきたり、「地下鉄に乗って」に出てくるような終戦後の闇市の光景だったり、フラッシュバックがいくつかあります。
 人生の真実とは何かに、住人がそれぞれ気づきはじめる、というのが共通のテーマなのでしょうか。いずれにしろ、浅田作品には一度入ると、暫くそこからは出たくない、そんなぬくもりのような温かさがあります。居心地が良くて、直ぐには出ていけない。ゆっくりと作品を読みながら、暫く余韻に浸っていたい、朝の寝床のような不思議な感覚があります。そうした不思議な感覚を、読者に感じさせることができた点で、作者浅田次郎の勝ちなのでしょう。今日も彼の世界に墜ちて行きます。あなたも一緒に墜ちてみてください。これは快感ですよ。次はどの浅田作品にはまりましょうか。