神楽坂のキャリアコンサルタント

永らく「神楽坂のキャピタリスト」のタイトルで発信をして参りましたが、この度タイトル名の変更を致しました。

 日本女性の美徳

macky-jun2009-12-16

 今年7月に公開したばかりの株式会社クックパッドの佐野陽光社長の話を聴いてきた。今日はここ1ヵ月間通っていたあずさ監査法人「株式上場セミナー」の最終回だった。あずさが手掛けた会社の最近の公開成功例として、上場体験談を語られた。クックパッドは料理レシピをインターネット上で提供するコミュニティーサイトhttp://cookpad.com/を運営している、所謂ネット系企業である。今年は新規公開件数が19社と、異例の少なさであったが、その中でも投資家からとても人気を集めた銘柄である。当然ながらいい株価をつけ、初値時価総額は250億円にもなった。
 佐野社長は36歳ととても若いが、慶應義塾大学環境情報学部を卒業して、すぐに起業した。会社は1997年設立で既に12年になる。専らユーザーは家庭の主婦で、現在816万人の登録会員がいる。特に20〜30代の女性の1/3は利用しているらしい。家族の献立の意思決定をサポートする強い味方である。ビジネスモデルとしては、ネット特有であるが、法人向けのマーケティング支援・広告となるが、個人ユーザーからも利用料を月240円取っている。 
 佐野社長は3年前に公開の意思を固めたというが、当時は社員がまだ13人(現在49人)。上場の目的は資金調達のチャネル拡大もあったが、社会的信頼を確保したい、というのが一番の理由だと語られていた。ビジネス収入源の法人とユーザーである家庭の主婦が重ならない。公開で信頼を得て、知名度を上げたかった。その為には公開が合理的な手段であった。ここ3年は新興市場環境が悪化していたが、第一義は社会的信頼の確保だったので、迷わなかったという。
IPOについてはそのメリット・デメリットが言われるが、IPOを通して先人の智恵を学びとろう、という考え方でやってきたので、メリットの方が圧倒的に多かった。ルールやコンプラが何の為にあるのかを考えたので、無駄なことは一つもなかった。この間、ルールも変わったが、人間社会が発展していくのにルールが変わるのは当たり前であり、むしろ健全であると考えた。と、公開準備の苦労もなんのその、極めてポジティブに捉えていた。
 当社は取締役会で全て決定するのに違和感を感じ、委員会設置会社という珍しいスタイルで公開を果たした。執行と監督を分離したかった。役員任期は1年で、給料は社外役員が決めるというシビアーさだが、事業の加速には有効であったと思っている。外に例のないスタイルで、かつ上場数も少なかったので、取引所の上場審査はとても丁寧に対応してくれた。
 会社の目的は「全ゆるシーンで料理が楽しくなるきっかけを溢れさせること」だという。佐野社長は「まだやりたいことの1%もできていない」とホームページに書いていたので、「あとの99%は何ですか」と私は敢えて質問をしてみた。「全世界に30億人の女性がいるとしたら、まだ816万人にしか普及していないので1%も普及していない」、と答えてくれたが、おそらく今後は海外展開(多言語での発信)も含め、まだ公表できない事業構想がいっぱいあるようだった。
 浅田次郎氏もエッセイ集「ま、いっか。」の中で言っている。「夜ごとうまい食事を亭主に食わせるというのは、使命でも責任でもなく、日本女性の美徳とするところである。わが国の食文化を支えてきたのは断じてレストランの厨房ではなく、世界に類を見ない台所の実力であった。」家庭の食のレベルが高いのは、わが国の誇れる点である。だから、私も道草せず、妻の料理が待っている家庭にせっせと帰って行くのである。世の多くの男性もそうであろう。
 現在、世界では年間8000万人もの人口が増加している。1年半で日本の人口が新たに創出してしまう程のハイピッチである。当然ながら、エネルギー、水、食料が問題となっていく。そんな中で、日本のハイレベルな家庭料理のアイディアが世界に貢献できるのではないか、と佐野社長は考えているようだ。
 クックパッドのような会社を発掘し、投資するのがベンチャーキャピタルの使命であるが、結局、この会社はVCからのファイナンスはしなかった。銀行からの融資も受けず、無借金でもあったようだ。少人数で始め、順調に進んだので、資金的な苦労がなかったのだろう。稀有な会社であるが、楽天もVCからファイナンスをしなかった。我々キャピタリストにとっては強烈なアイロニーともなるが、成長する企業の特質として、VCに頼らないというのがあるのだろうか。