神楽坂のキャリアコンサルタント

永らく「神楽坂のキャピタリスト」のタイトルで発信をして参りましたが、この度タイトル名の変更を致しました。

小説風「神楽坂のキャピタリスト」(12) 消え去った彼女

macky-jun2009-10-05

 出会いたいと思っているような、彼女に出会えることは、人生において殆どないであろう。出会いたいと思っている会社に、出会えるベンチャーキャピタリストも稀であろう。男はある時、そんな風に遠くから想っていた会社に投資をする機会を得たのだった。その会社の社長はベンチャー業界の雄として、マスコミにもよく登場する、ある意味で著名人であった。
 その会社は空気清浄機を作っている会社だった。正確に言うと、技術系というか発明家肌の社長を中心にした研究開発型企業であり、90年代中頃としては目新しい、工場を持たない(すなわち自社で製造をしない)ファブレスメーカーであった。毎期増収増益で、まさに絶好調であった。空気清浄機の市場規模はまだ200億円程度ながら、健康意識の高まりと、花粉症が激化し始めてブームとなっており、急成長市場であると見られていた。その中で、当社はシェア20%をとる業界No.1企業であった。
 空気清浄機の家庭普及率はいまだ5%未満であり、これからが本格的な普及期を迎え、火がつくと成長は速い、という「家電品業界で言われる普及率の法則」を信じ、この会社への投資を決めた。男にとって、快心の投資の筈であった。ところが、投資をして3年後の98年にこの会社は会社更生法を申請したのだった。
 当初はニッチな市場と見られ、この会社も独走出来たのだが、いざ成長市場とみるや、大手家電メーカーが本格的に参入して来たのだった。ベンチャー企業にとっては大手の資金力と販売網には太刀打ちできない。この会社のシェアはあっという間にダウンし、在庫の山を築くこととなる。そして、一気に資金繰りが悪化し、破綻への道を歩んだのだった。
 この会社も空気清浄機一本で勝負をしていたわけではない。二本目の柱として、除湿機の開発を目指していたが、技術的なトラブルで、巧く行かず戦略商品に成りえなかった。単品商売の弱さを露呈したのだった。
 男はベンチャー企業が手を出してはいけない世界があるのではないかと思った。成長市場となり魅力的になると、大手が資金力を生かして、ベンチャーを潰しにやってくる。特に、家電製品のようなマス市場の世界というのはその最たるものだろう。かつてはPCの世界で、最近ではAppleのi-podに席巻されたデジタルオーディオプレイヤーの世界で似たようなことがあった。ようやく出会えた彼女も、男にとっては幻のように消え去ったのだった。