神楽坂のキャリアコンサルタント

永らく「神楽坂のキャピタリスト」のタイトルで発信をして参りましたが、この度タイトル名の変更を致しました。

小説風「神楽坂のキャピタリスト」(10) Real Estate ForeverⅢ

macky-jun2009-09-28

 この前の話にはまだまだ続きがある。中堅不動産会社キャンペーンを社内ではった男は、その後もJ社の外にも、立て続けに3社に投資を実行した。いづれも東京の山の手から武蔵野地区で展開する不動産会社である。戸建てを専門にしていたり、マンション主体だったりした。この4社への投資で、男はなんと3勝もしたのだ。3社とも2〜5年で無事公開を果たしたのだった。
 忘れられないのは、この4社の内の公開できなかった1社である。耐震偽装マンションで有名になったH社のO嶋元社長が経営していた前身の会社である。H社にはわずかの金額の投資を行なったのみで、内部で不正事件があった時に買い戻しをしたので、幸い難を逃れ、恥をかくこともなかった。H社のマンション「グランドステージ」は同じ条件のマンションよりも2割安いというのが売り文句だった。パンフレットを見ると、なるほど品の良い高級マンションであり、とても惹きつけられるものがあった。何故安いのか?聞いてみると、H社は営業マンを一切置かないので、人件費が少なく、お客さんに対して割安に物件提供ができるとの回答が返ってきた。なるほど、と社宅住まいだった男は妙に納得してしまった。
 男も社宅住まいを始めて、既に10年以上が経ち、ぼちぼち自分の持家が欲しいと思っていた頃だった。入社して暫く経ち、住宅借入の資格ができ、持家購入を真面目に考え出した。その頃はまだバブルが弾ける前であり、先輩達から「早く買わないと、一生家が買えなくなるぞ」と嚇かされ、郊外のとても遠い所まで、毎週のように家族と車で出かけて、分譲地を見て回ったのだった。欲しいと思った物件は1億円を超え、とても手が出るものではなかった。買うことが可能な物件はとてもシャビーで、買いたいという気持ちをしならせるのに充分だった。バブルが弾けて思ったのは、その感覚こそが正しかったということだった。無理をして手を出さなくて良かったし、我慢してつまらない物件に手を出さなくて良かった。男は心底そう思ったのだった。
 そこに通常より2割安いマンションである。男の気持ちが傾きかけた。J社のマンションは夜討ち朝駆けで、他社よりも高めに売れる営業力が売りであった。自分の住まいを買う立場からは、当然J社の物件よりはH社の方がいいに決まっている。しかし、男はたまたま、具体的に格好の物件が出てこなかったので、H社のマンションを買うことはなかった。
 10年後、業容を拡大していたH社が「殺人マンションを造ってしまった」というO嶋元社長の言葉で有名になったが、男は久々にテレビの国会中継で、懐かしい顔を見て驚いたのだった。鉄骨・鉄筋等の資材を減らして造っていたのが、他よりも2割安い理由だったとわかり、またまた驚いてしまったのだった。男はまたしても騙されたなあと、頭をかいたのだった。つくづく騙されやすい男であるが、何故かついているのだった。しかし、後年、同じ不動産業でそのつきも使い果たしてしまうのを、男はまだ知らないのだった。