神楽坂のキャリアコンサルタント

永らく「神楽坂のキャピタリスト」のタイトルで発信をして参りましたが、この度タイトル名の変更を致しました。

小説風「神楽坂のキャピタリスト」(7) コンテンツⅡ

macky-jun2009-09-24

  投資をしてからのS社との付き合いは苦いものだった。大ヒットした作品に続く二発目のヒットが一向に出なかった。米国有名映画監督とのCG映画制作で失敗。タイトルファンドを組むものの、結果的に挫折。借金を多額に抱え、金繰りが悪化してしまった。結局、実力以上の事業拡大があだになったのだ。また、大手企業との提携話が悉く失敗したのだった。大手企業の口約束に頼り、法的にプロテクトしていなかった。同族の老舗企業との提携では文化の違いから、まったく相性が合わなかった。
 業界の流れにうまく乗れなかったのも敗因であった。CD-ROMからDVDやインターネットへの市場の流れに合わせたコンテンツ作りがうまく出来なかったのだ。家庭用ゲームコンテンツと競合してしまったのもついていなかった。CD-ROMは立ち上げに時間がかかり、操作が複雑で敬遠されるようになっていた。また、A社長自身に感じていた不安がやはり露呈したのだった。なまじ持ち上げられた為、業界活動に忙しく、明らかに自社経営が疎かになっていた。そもそも、A社長は経営管理リスク管理能力等、経営者としての適性を欠いていた人物だった。
 結局、S社は投資後、赤字決算を続け、実質債務超過に転落し、銀行の融資姿勢が厳しくなり、保全回収に対抗できなかった。98年秋にA社長は失踪し、翌月自己破産を申請し、S社は倒産した。
 男は何故この投資案件が失敗したのかを振り返ってみた。成長業界で、PCの将来性に賭けた案件であり、新しい事業を展開する会社や経営者には魅力が多く、つい投資をしてみたくなるものだ。その魅力に冷静な判断が勝てなかった。コンテンツビジネスはクリエーター個人の才能に依存する為、クリエーターやチームの離脱(他社からの引き抜き等)を経営者は恐れており、つい甘やかしたり、制作管理が難しくなっていると思われる。また、作品が仮に完成し、市場に出しても当たるかどうかの予想は難しい。すなわち、もとよりリスクの高いビジネスである。
 新しい業界ということで、判断に甘さがなかったか。他の業界と同様に、会社と経営者の資質を冷静に判断するべきでなかったか。業界用語を多用する経営者の話がわかりにくかったというのは、説明能力・交渉力の欠如の表れを現わすものでもある。いずれにしろ、判断のポイントは伝統業種も新規業種も同じであるという真理に気がついた。失敗は痛いし、経営者に夜逃げされてしまうのも気分が悪い。だけど、男にとって、この失敗はベンチャーキャピタリストとしての成長の肥やしになったのではないだろうか。