神楽坂のキャリアコンサルタント

永らく「神楽坂のキャピタリスト」のタイトルで発信をして参りましたが、この度タイトル名の変更を致しました。

谷口ジロー「遥かな町へ」

macky-jun2009-08-24

   今日も連日ではあるが、漫画の話題である。この夏、再読したいと思っていたのが、昨日ご紹介したこうの史代の「夕凪の街 桜の国」の外に、谷口ジローの「遥かな町へ」の2冊だった。この2作品は手元にぜひ置いておきたい、と思わせる作品であり、書店で探したこともあったが、運悪く手に入らず、そのままになっていた。夏休みのこのシーズンだからだろうか、またふと思い出していた処に、こうの史代さんの本にたまたま図書館で出会えたのが昨日のことだった。
 今日、日経新聞の夕刊の9面「ひと」を読んでいて、「欧州が見いだしたマンガ」と題して、漫画家の谷口ジローさんの特集が始まったのを知った。何たる偶然、思えば、読みたいものは向こうからやってくる。谷口ジローさんは欧州で最も高い評価を受けている漫画家の一人だ。仏独伊西など各国の主要な国際漫画祭で10回以上の受賞歴がある。また、代表作でもある「遥かな町へ」は近く仏で映画化されるという。
 「遥かな町へ」はビッグコミックに98年に連載されていた作品で、当時定期購読していた私はこの漫画を楽しみにしていた。絵の雰囲気は地味だけど、何ともいえぬ、味のある作品であった。故郷の鳥取県倉吉市に帰った48歳の中年男性が、大人の心のままで、14歳の中学生時代にタイムスリップしてしまうという話である。浅田次郎筒井康隆の世界が好きな私が、よく引用するネタ通りの話でもある。すなわち、私自身が経験してみたい世界である。大人の知識と経験を持ったまま、14歳の肉体を持ち、青春を追体験できるところにこの物語の素晴らしさがある。追体験できる新しい過去は素晴らしい輝きを放つようだ。つまらなかった勉強も苦手だった体育も、新鮮に感じる。話したこともなかった憧れの君との濃密な時間も夢の様だ。こう書いてくると、皆さんもそんな経験をしたいと思うはずだ。何しろ、人生をやり直しできるようなものだからだ。
 主人公は、14歳の時に、誰にも告げずに家を出てしまった父親の気持ちを知ることになる。結局、何も変えることが出来ないまま、彼は記憶を取り戻し、もとの生活に戻る。そして、ある日、家に届いた小包を開けると…。
 谷口さんがこの作品で描きたかったのは、人生には転機があるということらしい。人生はその時々の決断で変わるが、過去には戻れない。今の自分をどう生きるかが大事なんだと訴えたかったようだ。
 日常生活を淡々と描く映画監督の小津安二郎は仏で絶大な人気があるという。谷口さんの作品が評価されるのもその流れかもしれない。ストーリーを重視する傾向の日本の漫画に対し、欧米では絵を重視して、絵自体で何かを表現する作品が多いようだ。それ故に、素朴だけど、絵だけで物語を表現できる彼の評価が高いのはなるほどなのかもしれない。
 最後に、この新聞記事を書いた編集委員の名前を見て、驚いた。な、なんと、私の従兄だった。