神楽坂のキャリアコンサルタント

永らく「神楽坂のキャピタリスト」のタイトルで発信をして参りましたが、この度タイトル名の変更を致しました。

インベストメントバンクの破綻(5)-金融工学の功罪-

macky-jun2008-10-18

 サブプライムローン問題を契機に、金融工学は本来なら貸してはいけない人に金を貸す悪知恵である、と皮肉交じりに言われている。金融工学を駆使して、バブルを演出し、米国の国益とシンクロして繁栄を築いてきたのが投資銀行である。
 財政赤字貿易赤字双子の赤字を抱えた米国経済では実体経済の弱さを補うために、常にバブルを創る必要があったといえる。多少のバブルは経済にとって好材料である。そのテーマを不動産、ハイテク、新興国コモディティー、環境エネルギーと次々と変えていった。商業銀行と違って、ストックのない投資銀行は、旬のビジネスを追いかける必要があった。ブームがフィーバーとなり、バブルへと発展していく。バブルの中にも幾つかの真実があり、本物と偽物との区別は整然とつきにくい。バブルを創ることで、投資銀行は巨大に膨れ上がる人件費、システム費用を賄っていく必要があったのだ。
 ちなみに、経済史をひも解いていくと、人類の歴史はバブルの繰り返しである。17世紀欧州のチューリップ球根バブル、南海泡沫会社、日本でも80年代の不動産・株価バブル。そして日本の場合は暗黒の「失われた15年」を経験する。一方、米国はバブルは弾けても、次なるバブルを上手く創りだして、日本経済のような暗黒時代を回避してきた。つまり、米国は常に魅力的なテーマを矢継ぎ早に打ち出して、内外の豊富な資金をドル市場に誘引して国内経済を活性化させてきたのである。
 グリーンスパン氏はその在任中は19年間もの長きにわたり、その見事な経済運営から“マエストロ”と賞賛されてきたが、今、一転してその責任を問われている。過剰流動性を放置した政策を採った結果、住宅バブルの温床になったと批判されているのである。グリーンスパン・ルービンの時代に米国は金融立国を目指した。その結果、2007年には労働者のわずか5%を占めるにすぎない金融業界が、米国企業収益の40%を占めるスター産業になったのである。
 モノを作らない米国経済の40%は、本来は実体経済の黒子であるべき金融業界が支えていた。特に、投資銀行金融工学を駆使した錬金術で、高レバレッジを効かし何倍にも膨らましたビジネスで収益を創出してきた。これが米国の国益にも適ったことから、表裏一体で成長してきた。投資銀行破綻の教訓は「現在価値革命」の暴走でもある。あらゆる資産を市場取引の対象とするために、価格を時価で評価する会計思想である。1996年のグリーンスパン氏の「根拠なき熱狂発言」で「株価が妥当ならば会計情報は企業価値を表していない」という問題提起であり、「ビル・ゲイツの脳みそはMicrosoft社のB/Sには載っていない」という議論である。計測できないものも計測し、時価を利用し尽くす欲求は、主観に基づき会計を恣意的な操作に流し、利益を先取りしていった。
 今回の投資銀行の破綻に端を発する世界金融危機は、米国の金融国家戦略の失敗を証明するものであり、米国覇権構造(パックスアメリカーナ)を経済面で修正していく革命を意味しているのかもしれない。