神楽坂のキャリアコンサルタント

永らく「神楽坂のキャピタリスト」のタイトルで発信をして参りましたが、この度タイトル名の変更を致しました。

サマーセット・モーム「人間の絆」から

macky-jun2008-10-16

  ひろさちやさんという仏教哲学家がいる。彼の著作「狂いのすすめ」(07/1集英社新書)から、僕の好きなサマーセット・モームの「人間の絆」を引用した面白い機智に富んだフレーズがあるので、要約しご紹介したい。
 東方のある国王は学者に命じて、「人間の歴史」を書いた500巻の書物を集めさせました。政務に忙しい国王は、時間がありませんので、それを要約するよう命じます。20年後、学者はそれを1/10に要約し、持参します。だけど、国王は気力が無くなっていましたので、更に短くするよう命じます。その20年後、白髪の学者は杖を突きつつ、1冊の書物を携えて宮廷にやって来ました。ところが、国王は既に臨終のベッドの上です。そこで、学者は「人間の歴史」をわずか1行に要約して国王の耳元で聞かせました。
 <・・賢者は、人間の歴史をわずか1行にして申し上げた。人は生まれ、苦しみ、そして死ぬ、と。人生の意味など、そんなものは何もない。そして人間の一生もまた、なんの役にも立たないのだ。彼が生まれて来ようと、来なかろうと、生きていようと、死んでしまおうと、そんなことは一切なんの影響もない。生も無意味、死もまた無意味なのだ。>(中野好夫訳)
 500巻にも及ぶ「人間の歴史」も、要約すればわずか一行になります。人生に意味なんてありません。みんな、苦しみながら、死んでいくだけのこと。私たちは人生に意味があるかのように思っています。正確に言えば、思わされているのです。世間が、学校が、会社が寄ってたかって、我々に「人生の意味」を教え、「生き甲斐」を持たせようとする。そうすることによって、我々を束縛するのである。
 別の章で「現在」を楽しむ、ということを言っている。明日のことを思い悩んでもしょうがない。楽しむといっても、笑い転げたりすることではなく、泣いて苦しむ時は思いっきり泣けばいい。その苦しみを楽しむことができれば、あなたの人生は素晴らしいものになる、という。
 全編を通じて、ひろさちやさんが言いたいことは、「世間の常識に騙されるな、自分の内なる声、欲求に素直に、無理せずに、生きろ、それが正しい生き方である。」ということなのかな、と勝手に解釈しています。何となく(麻生首相の口癖で、曖昧だと今朝の朝日新聞で批判されていましたが・・)、生きるのに肩の力が抜けて、楽になるようです。