神楽坂のキャリアコンサルタント

永らく「神楽坂のキャピタリスト」のタイトルで発信をして参りましたが、この度タイトル名の変更を致しました。

清水佑三さんに捧ぐ(その3)

macky-jun2008-04-16

  新オフィスも3日目、だいぶ慣れてきた。街を歩くと、周りのビルが巨大だ。ここは都心だなとあらためて感じる。やはり、兜町はかつて経済・金融の中心だったかもしれないけど、現在は東京の外れに追いやられた街だったような気がする。味のあるいい街だったけど、土地を変えてみると、また新しい土地の魅力を探ってみたくなる。
 「清水佑三さんに捧ぐ」のブログを書いてから、連日もの凄い多くのアクセスを頂いている。清水佑三ファンは世の中にこんなにいたのかと、あらためて個人の皆さまの清水さんに対する愛情を深く感じる次第である。彼の多彩な著作や講演、はたまたビジネスでのコンサルに対するファンが多いのだろうと思う。私ごときが清水さんに対する追悼文なるものを書くのもおこがましいが、一清水ファンとしてお許し頂きたい。
 清水さんが社長をされる日本SHLへの投資案件が難しかったのは前日書いた通りだが、社内でこの案件に対する厚い壁を感じた私は、親会社である英国SHL社を訪ね、役員へのヒアリングを行うこととした。投資調査での支援材料とするためである。たまたま、96/5に当時の合弁パートナーである英国の3iというあのサッチャー首相の可愛がった欧州最大のVCでMBOファームである会社に、研修へ行くことが決まっていた。正に運命的なタイミングである。
 研修最終日のタイミングを捉え、ウィンブルドンの先のSurbitonというLondon郊外の、小さな街にあるSHL本社に極東代表を務める役員のMaybe氏を訪ねた。本社にはコンサルタント養成のための施設が主体となっており、特に9Hのゴルフショートコースが福利厚生用としてあったのは印象的だった。全体的に社員を大事にする社風が強く感じられた。Surbitonの町は駅前にゴルフ場のような公園が広がり、近郊の家はどこも程よく広くゆったりしていて、経済的な豊かさを感じさせてくれる街並みだった。まさに理想の暮らしというのはこういうのを言うのではないかと思った程だ。そこに楽園があった。私の大好きなPaul McCartneyが「Pipes of Peace」で歌っている世界のイメージがぴったりくるような、この世の理想的な住居地域だったのが、とっても印象的だった。これだけ豊かな環境に身を置いている会社に、間違いはないのではないかと思った。また、Maybe氏は私のどんな質問にも快く答えてくれた。英国出張の成果はあったと確信した。
 東京に帰り、96/5に社内審査会に諮り、50Mの投資を決めた。翌年の97/3にMilestone投資として更に45Mを行ない、合計95Mの投資を実行した。この間でもいろいろな経緯があり、ライバルJ社と資本政策提案を競うことになった。株価の条件交渉のところで、駆け引き上手の清水社長に当方A部長が激怒する局面もあったが、担当の私としては何とかA部長をなだめ、クロージングした。結果、当方のみの単独参入となった。(余談だが、このA部長は今では某大手医薬品会社の専務になっている。)この時、親会社英国SHL社を意識し、資本政策を英文でも作成し提案したちょっとした工夫が、当方優位となったのは後で聞かされた。当時、私は今よりも激しくJ社に対してライバル意識を燃やしていて、所詮J社と当時の我が社ではゾウとアリの存在でしかなかったけど、局地戦においては絶対負けてはなるまいと、自分自身に誓っていて、負けたことはなかった。そのことが私のキャピタリストとしての小さな誇りであった。その後も当社に対してはリードキャピタルとして、営業斡旋や事業提携等、数々の支援を行なった。自分としてはハンズオン投資案件として、いろいろと考えつく限りのことが出来た案件だと認識している。
 日本SHL社は期待に応え、翌年黒転をすぐ果たし、業績は着実に伸び続け、増収増益を継続した。投資後5年の01/2にヘラクレス市場に公開を果たしたのだった。我々にも5億円のキャピタルゲインをもたらしてくれた。この時、私は既に銀行に戻っていたので、営業的な喜びは享受できなかったが、清水社長から日本SHL社の公開記念パーティー中野サンプラザで開かれ、銀行員の立場でありながら、その席に招待された。社長挨拶で開口一番、”当社公開の恩人がいる”として自分のことを紹介して頂く光栄に浴しました。キャピタリストとしての喜びは経営者から感謝されるということに尽きると思います。これまでの人生の内でもあれだけの喜びを得た瞬間はそう多くはありません。また、こうした形として恩義を返してくれる清水さんの人柄に深く感動しました。
 その後、更に日本SHL社は清水社長の強いリーダーシップの下で、成長を続け、07/9期売上高1,652M、経常損益714M、当期損益425Mで、自己資本比率84.2%の、高収益で無借金の優良会社となっている。
 キャピタリストとして、この案件を仕上げてみて、幾つか思うところがある。一つは過去の業績の悪さに怯んではならない、ということだ。我々の見るポイントはあくまでも未来だ。しかし、過去の実績に未来の延長線となる原因と予兆が含まれているのも真実だ。二つめは世の中の動き、何が今後流行っていくのか、近未来(1〜5年後)の社会を予測する癖を持つのも大事だ。三つめは確信したら、自分を信じて、たとえどんな反対があっても屈せず、状況証拠・説得材料を積み上げ、コンセンサスを得られるべく努める。四つめはリード・ハンズオン先への投資後はあらゆる所から徹底的に支援を行ない、IPO後のバリューを高めるべく工夫をすること、と思う。
 私が今日、キャピタリストを続けていられるのも、プロ職としてのキャピタリストに転じたのも、日本SHL社への投資案件での成功体験がきっかけとなっております。そういう意味でも、清水佑三さんとの出会いは私にも大きな影響を与えてくれたし、恩人と思っており、感謝に堪えません。あらためて、清水さんのご冥福を祈りたいと思います。