神楽坂のキャリアコンサルタント

永らく「神楽坂のキャピタリスト」のタイトルで発信をして参りましたが、この度タイトル名の変更を致しました。

学会デビュー

macky-jun2012-06-09

  証券経済学会の春季大会が金沢八景にある関東学院大学で行われた。この日、私は初の学会発表を行なったのだった。昨年、同学会に入会したばかりであるが、早速発表をさせて貰う機会を頂けた。論題は「IPOの意義についての一考察−非上場化MBOブームの中で−」というテーマである。
 日頃、ベンチャーキャピタリストとして市場のうねりの中で考えてきたことを、昨年末に論文としてまとめたのだが、その報告である。内容は以下の通りであるが、ここ数年新興市場の大変貌の中で、私を含めたキャピタリストの仲間たちの多くは痛い目に遭ってきた。その忸怩たる思いを心の叫びを上げることなく冷静に振り返ってみた内容になっている。
 以下がその報告の概要である。
・近年MBOによって上場廃止する企業が急増している。CCC、アートコーポレーション幻冬舎といった有名銘柄が市場を去った。一方で新規公開する企業数は低迷しており、上場廃止企業数が上回り、上場企業数は毎年減少している。
・経営の自由度を高めるためというのが主な上場廃止理由として述べられることが多い。一方で、株主対応の煩わしさや上場維持コストの負担解消も大きな目的となっていると言われている。そこで本報告ではIPOのメリットとデメリットを象徴的に示すデータを収集して、その長短を比較検討することによりIPOの意義について再検討してみた。この検討を通して、近年のIPO市場の不振とMBOによる上場廃止に繋がる動きの要因解明に迫ってみた。何故企業は非上場化をするのか。果たしてIPOの意義とは何だったのか。
IPOのメリットは、第一に資金調達面での多様化、第二に株価上昇に伴う企業価値の向上、第三に優秀な人材の確保、第四に企業信用力・知名度の向上、第五に創業者利得の実現、などである。
IPOのデメリットは、第一に上場維持コストの増大、第二に情報開示義務への対応、第三にTOBリスクへの対応、第四にIFRSコストの増大、などである。
IPOメリット・デメリットをそれぞれ関連指標や事例と共に見ていくと、かつてメリットと考えられていた要因が剥落し、IPOのブランド力が低下し、経営者のIPO意欲が減退してしまったことが言える。また、IPOをすることによるデメリットと思われていた要因が更に増加し、広義の上場維持コストが重くなり、逆にTOBリスクが顕現化した。J-SOXIFRSと次々と新しいルールが制定され、グローバル化コンプライアンスの流れの中で様々な制約が上場企業に対して課されるようになり、結果的にIPOの魅力そのものが失われているという結論に至った。
 ストーリーとしてエッセンスを書いてみると、甚だ当たり前な内容であり、日々現場で投資活動をしているキャピタリスト仲間からすれば、「今更なに?それ」といった反応であろうかと思う。結論が実感として見える当たり前な内容をコツコツとデータを収集し、時に自分自身が作ったデータを分析し、論理を展開していく、とっても面倒くさい作業の集積が研究なのだと学んだ。
 この日、これまでいろいろと指導してくれたT大学のW教授が討論者として、幾つか鋭い質問を投げかけてくれた。日頃、ビジネスではプレゼンには慣れている筈なのだが、初の学会発表とあり、私はかなり緊張をしていた。しかし、話し続けているうちに、汗を搔きつつ、次第に自分のペースを取り戻した。事前準備といい、W教授には大変お世話になった。まずは無事、学会発表も終わり、暫くこれに集中していた為にとても開放感を味わえた。家でスパークリングワインを空け、祝って貰った。すっかりご無沙汰していたブログもまたボチボチ復活していきたい。