神楽坂のキャリアコンサルタント

永らく「神楽坂のキャピタリスト」のタイトルで発信をして参りましたが、この度タイトル名の変更を致しました。

湊かなえ「告白」を読んで

macky-jun2010-05-26

  先日購入した小説推理新人賞受賞で本屋大賞受賞作、湊かなえ「告白」を読了した。女性教師のホームルームでの衝撃の告白からスタートする小説である。「愛美は死にました。しかし事故ではありません。このクラスの生徒に殺されたのです。」最近、この6/5からスタートする映画の宣伝をよく目にするようになり、このショッキングなセリフが気になり、原作を読みたいと思った次第である。この作品は新人離れした圧倒的な筆力と、伏線が秘められた緻密な構成力で、デビュー作とは思えぬ完成度を評価されたようである。
 このミステリー小説は6つの章から構成されており、関係者がそれぞれの立場から告白を行ない、徐々に真実が炙り出され、見えてくるという話である。なんだか、芥川龍之介の「藪の中」を彷彿とさせる話でもあり、その小説のスタイルは似ているなというのが第一印象であった。「藪の中」は関係者の言い分が食い違っており、真相が皆目分からなくなって、この言葉が生まれることにもなった。「告白」の場合は、いろいろな視点からの証言、背景が明らかになるにつれ、次第に真実らしいものが見えてくるようだ。しかし、そこには個人によって、全く違う解釈の仕方があり、決して一つの真実などにはなりえない。
 6つの章は、先ずは娘を殺された女教師森口のホームルームでの告白からスタートし、女生徒美月から森口先生に送った手紙、少年B直樹の姉が読む殺された母の日記、少年B直樹の独白、少年A修哉の独白、森口から修哉への電話という、語り手を変え、手段を変えた独白形式を取る構成が絶妙だ。文庫で300ページあるが、スピード感を持ってあっという間に読める、テンポの良さがあるのが魅力だ。そして、いくつかのどんでん返しが起きる。
 この小説の描く世界にはいろいろなテーマがある。少年法の限界から自ら復讐を行なう女性教師、生い立ち・家庭環境から悪意なく犯罪に走る少年たち、マザコン少年の陥る心の闇、モンスターペアレント、シングルマザー、HIV感染・・・。
 それぞれが語る事実は、独りよがりの偏った視点からのものであり、微妙な食い違いがある。常に自分と他者との関係での真実は多少違って見えるものかもしれない。ならば、この世の中に絶対的な真実というものは存在するのだろうか。