神楽坂のキャリアコンサルタント

永らく「神楽坂のキャピタリスト」のタイトルで発信をして参りましたが、この度タイトル名の変更を致しました。

「カルミナ・ブラーナ」に陶酔

macky-jun2010-05-05

  新国立劇場にデヴィッド・ビントレーの「カルミナ・ブラーナ」を観た。とても好きな演目で、これまでに4回も観ているが、その内3回はデヴィッド・ビントレー振付のバーミンガム・ロイヤルバレエ版の演出を観ている。
 初めて「カルミナ・ブラーナ」を観たのは、ロンドン・コヴェントガーデンでのバーミンガム・ロイヤルバレエ公演だった。前のVC会社にいた時に、合弁相手に英国の3iという会社があり、そこの研修で暫く滞在した時だった。1996年5月21日の晩に、まだ改修前の古いコヴェントガーデンに出かけ当日晩のチケットを買った。天井に近い5階席のチケットしか残っていなかった。だけど、この演目はプリマバレリーナを近くで観るよりも、全体の構成(群舞の動き)を観た方が面白いと個人的には思っているので、この席で十分だった。半券が残っており、£17.50となっているので、3千円位だろうか。
 この時主役の運命の女神フォルトナをやったのはCatherine Batcheller。当時の同バレエ団のプリンシパルだ。登場しただけでオーラを感じさせた凄い人だった。基は中世の音楽や文学から生み出され、カール・オルフにより世俗カンタータに仕立てられた。その音楽的魅力を引き出しつつ、60年代英国のポップカルチャーの要素や、リバーダンス(アイルランドの舞踊芸術)の動きを取り入れ、現代的にアレンジした作品である。ビントレーが1995年にバーミンガム・ロイヤルバレエの芸術監督に就任して、初めて手掛けた作品である。1995年9月が初演なので、私が観たのはその翌年だ。
 次に観たのは、1997年12月の佐多達枝振付のカルミナ・ブラーナ実行委員会という寄合集団による公演、そして2005年10月の新国立劇場公演であり、今回が同劇場での再演ということになる。今秋(来シーズン)からビントレーが牧阿佐美さんに代わり、新国立劇場芸術監督に就任することが決まっている。その為、この後も「ペンギン・カフェ」「アラジン」など彼の振付作品が目白押しだ。基本的にビントレーの振り付けは現代的で、適度に風刺的で、飽きさせず、私は好きである。
 今日のフォルトナ役は小野絢子だった。もう少し上背があれば貫禄があるのにと思ったが、十分上手かった。群舞メンバーも含め、日本のバレエ団も上手くなったとつくづく思う。特に冒頭シーンはシンプルであるがとても印象的でインパクトがある。黒のミニドレスにハイヒール、目隠しをした女性が大きな舞台にたった一人で登場する。ここは登場するだけでオーラを感じさせなければならない。難しい役どころだ。そして、力強く踊り出し、オルフの迫力満点の音楽と共に、運命の女神の圧倒的なソロで物語はスタートする。
 ストーリーは何度観ても、本当のところはよくわかっていないのだが、生の根源である欲望に導かれ、俗世界に呑みこまれていく三人の神学生の遍歴を、慈愛のこもった眼差しで描かれているようだ。男女のアクロバティックなパ・ド・ドゥは、エネルギッシュであり、官能的でもあり、愉しい。ラストは舞台を圧するコーラスを背景に、無数に増殖した運命の女神のクローンが次々と舞台いっぱいに拡がり、冒頭と同じ音楽で爆発する。何度見ても陶酔できるバレエでした。