神楽坂のキャリアコンサルタント

永らく「神楽坂のキャピタリスト」のタイトルで発信をして参りましたが、この度タイトル名の変更を致しました。

  浅田次郎「月下の恋人」

macky-jun2009-08-18

 浅田次郎の「月下の恋人」を読んでいる。浅田が5年越しで書いた珠玉の短編集である。この作品の特徴は結末が全て説明されず、読者の想像に任される点である。時に残尿感というか、物足りなさを感じることもあるが、これも浅田の小説のテクニックであり、読者はそのあとを余韻を持って、考えるというご褒美を頂くことでもある。
 例えば、「黒い森」という作品では、商社マンの主人公が婚約を誓った恋人が何者であるのか、周囲は噂するが、主人公は最後までわからない、という苛立たしい気持ちで終わってしまう。そこで我々はこの女性の過去がこうであったとか、家系に不幸があったのかとか・・・いろいろな連想をするが、作者は解答を与えてくれない。読者もこの結末、事情が何であったのか、じっとしていられなくなる、という仕掛け付きなのだろう。
 11編で彩られた短編作品には、どれも目立たなく控え目だけど、美しい女性が登場する。男性はエリートサラリーマンから、学生、チンピラまで、多彩なキャラクターが登場するが、みんな不器用な人物ばかりというのが共通項か。そもそも浅田の作品に登場する男性主人公に、生き方の器用な人間は登場しないようだ。不器用な私が愛読している理由はそこにあるのかもしれない。不器用だけど、真直ぐ前を向いて歩む主人公に共感を持っている。あと4編で読み終わってしまう。離れがたいと思わせる作品である。